大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4999号 判決

原告

蟹江サト

原告

蟹江丈夫

原告

蟹江亨夫

原告

大塚元子

右原告四名訴訟代理人

上山義昭

渡邊興安

被告

三興不動産合資会社

右代表者無限責任社員

不明

(訴状記載の無限責任社員)

亡日野吉夫

訴状記載の被告

亡日野吉夫

(右亡日野吉夫の相続人とみられる者、日野さい、日野麗、日野市朗、日野弘子、日野毅、日野克、山田睦子――いずれも住居所不明)

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一本件訴訟の請求の内容

本件訴えは、原告ら四名が三興不動産合資会社及び日野吉夫を被告として提起したものであり、その請求の趣旨及び原因は別紙一記載のとおりである。

第二本件訴訟手続の経過

一本件訴えは昭和五一年六月一五日に提起され、当裁判所は同年七月二三日本件口頭弁論期日を同年九月二二日午前一〇時三〇分と指定した。右期日指定に先だち、被告日野吉夫は同年七月一二日同被告の訴訟代理人として弁護士二関敏及び同佐野栄三郎を選任し、本件訴訟の遂行を委任し、同日右訴訟代理人弁護士佐野栄三郎が同被告に対する本件訴状を受領した。また、同年八月二日被告三興不動産合資会社(以下、被告会社という。)に本件訴状は送達され、被告会社は翌三日同被告会社の訴訟代理人として右弁護士二関敏及び同佐野栄三郎を選任し、本件訴訟の遂行を委任した。

二同年九月二〇日原告四名訴訟代理人弁護士上山義昭並びに被告両名訴訟代理人弁護士二関敏及び同佐野栄三郎は当裁判所に当事者間において訴訟外の和解が進行中であるとして右指定の口頭弁論期日の変更を申立てるとともに次回期日につき追つて指定とするよう上申し、当裁判所は同日右指定の口頭弁論期日を変更し、次回期日は追つて指定する旨決定した。その後、被告会社代表者であり被告本人であつた日野は昭和五三年五月二七日死亡するに至つた(但し、当裁判所が同人の死亡を知つたのは後記期日指定の申立があつてからである。)。

三昭和五七年一月二七日原告四名訴訟代理人から当事者間における訴訟外の和解は不調であるとして期日指定の申立があり、当裁判所は同日本件口頭弁論期日を同年三月一六日午前一〇時と指定し、その旨当事者双方の訴訟代理人に通知したところ、同年二月八日被告両名訴訟代理人弁護士二関敏及び同佐野栄三郎は本件訴訟代理人を辞任した。

四そこで、当裁判所は、右指定の昭和五七年三月一六日午前一〇時の口頭弁論期日に出頭した原告四名訴訟復代理人弁護士渡邊興安に対し、被告両名の訴訟代理人が辞任した旨告げるとともに、被告会社に対する期日呼出状が不送達であること、被告日野吉夫の相続人から受継の申出がなく、当裁判所に何人が相続人であるか不明であり、原告らにおいて調査し受継の申立をするかどうか、被告会社に対する関係をどのように処置するか、等本件訴訟の進行について次回の指定期日までに検討するよう促し、同日の口頭弁論期日を延期して次回期日を同年四月二〇日午前一〇時と指定した。しかし、右期日までに原告らからは受継の申立も、被告会社の送達先についての連絡もなかつた。

そのため、右指定の同年四月二〇日午前一〇時本件口頭弁論期日に出頭した原告四名の右訴訟復代理人に再度本件訴訟の進行について調査検討するよう促し、同代理人もこれを了承し、同日口頭弁論期日を延期して次回期日を同年六月二二日午前一〇時と指定した。その後の訴訟手続の進行経過は、次のとおりである。

口頭弁論期日

当事者の出頭状況等

昭和五七年六月二二日

午前一〇時

原告四名訴訟復代理人渡邊興安出頭。

被告関係不送達。延期。

同年九月七日

午前一〇時三〇分

右同

同年一〇月五日

午前一〇時

右同

同年一一月九日

午前一〇時三〇分

右同

同年一一月九日

午前一〇時三〇分

原告四名訴訟代理人上山義昭出頭。

被告関係不送達。延期。

昭和五八年二月一五日

午前一〇時三〇分

原告四名本人及び訴訟代理人不出頭。

被告関係不送達。延期。

同年三月一日

午前一〇時

原告四名訴訟代理人上山義昭出頭。

被告関係不送達。延期。

同年四月五日

午前一〇時三〇分

原告四名本人及び訴訟代理人不出頭。

被告関係不呼出。延期。

右の経過を経たのは、原告四名訴訟代理人若しくは訴訟復代理人から被告日野吉夫の相続人等の調査と本件訴訟の進行について原告四名と打ち合せ、検討するとの申出があつたことによるものであるが、昭和五八年三月一五日に至り原告四名訴訟代理人弁護士上山義昭から当裁判所に対し別紙二の上申書が提出されるに至つた。

そこで、当裁判所は昭和五八年七月五日原告四名訴訟代理人弁護士上山義昭に対し、原告四名において本件訴訟を続行すべき被告及びその被告の住居所を昭和五八年八月末日までに明らかにするよう補正を命じたが、右期日を経過してもなんらの応答もなかつた。

第三当裁判所の判断

一右のとおり、被告日野が死亡し、同被告の訴訟代理人が辞任したため、同被告との間の本件訴訟手続は中断するに至つたのに、同被告の相続人からの受継の申出がなく、また、相手方たる原告四名からの受継の申立もないまま前示のとおりの経過を経たところ、原告四名の訴訟代理人から別紙二のような上申書が提出されるに至つたのであり、当裁判所には被告日野の相続人及びその相続人の住居所も判明していない(戸籍謄本から同被告の相続人は前記当事者の表示として括弧に記載した者ではないかと思われるが、確たるものではない。)うえ、本件訴訟手続が未だ訴状の陳述もない状況にあるところからすれば、当裁判所において職権で相続人を調査して続行を命じ、かつ、公示送達の要件を調査して公示送達をなすべきことを裁判所書記官に命ずるまでもなく、被告日野に関する訴えについて、民訴法二〇二条を準用して判決をもつて却下することができると解するのが相当である。

二また、被告会社についても、前記のとおり、住所が不明であり、期日の呼出状が送達できない状況にある(なお、被告会社の登記簿謄本によると、被告会社の無限責任社員は被告日野一名であり、その唯一の無限責任社員たる同被告が前示のとおり死亡したのであるから、定款にその相続人が無限責任社員となる旨の定めがない限り、被告会社は解散となり商法一二二条を準用して清算人を選任するのが相当であると解されるが、被告会社の定款に右の点についての規定があるか否か定かではなく、仮に右規定を欠くとしても、本来能動的立場にある原告らにおいてなんらの措置を採らないのに、当裁判所において本件訴訟手続を進行させるために職権をもつて被告会社の清算人を選任することは、本来会社の包括的な清算事務の遂行のための選任規定である商法一二二条の趣旨からして適切さを欠くといわなければならない。)のに、原告四名はその点の補正をしないのであるから、本件訴訟手続が未だ訴状の陳述すらなされていない状況であることに鑑みれば、裁判所が職権で公示送達の要件について調査して公示送達をすべきことを裁判所書記官に命ずることなく、被告会社に対する訴えについても、民訴法二〇二条を準用して判決をもつて却下することができると解するのが相当である。

三よつて、本件訴えはこれを却下することとし、訴訟費用につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (海保寛)

別紙一請求の趣旨〈省略〉

請求の原因〈省略〉

物件目録〈省略〉

別紙二

右当事者間の頭書事件につき、原告代理人は、次の通り上申いたします。

一 被告三興不動産合資会社(以下被告会社という)代表者で唯一の無限責任社員の日野吉夫は、昭和五三年五月二七日死亡により退社しました。

二 そこで被告会社は、無限責任社員全員の退社により解散し(商一六二エ)、現在まで会社継続の登記がありません。

故に本訴の受継の申立をしたいと思いますが、被告会社が消滅し代表者がないので、訴訟書類の送達ができません。

三 本代理人は、原告を利害関係人として、右被告会社の清算人選任の申立をする(商一四七、一二二)必要を認めました。御庁により右清算人選任の上は、右清算会社をして本訴訟を受継させ、その受継申立書およびその後の訴訟書類を右清算人に送達することができると考えたからです。

右手続の完了までは、被告会社に対する書類送達はできないと考えます。

四 そこで、本代理人は、原告らに対し、前記趣旨を説述し、清算人選任の申立書(非訟法一三六、一三六ノ二)に必要な委任状の交付(非訟法七、民訴八〇)を求め、かつ清算人の職務遂行上の費用等若干用意(その額は裁判所の決定による)方を勧告しました。

五 ところが、原告らの親族間には、昨年来長期病床に伏し、死亡する者などあり、その他にも財政上の困難があつた由で、原告ら四人間で、本代理人の勧告に従うべきか否か、今日まで決しません。

六 本代理人は、原告らの先代茂男とは大学時代の同級生(原告先代と日野吉夫とも同級生)で、同人から友人として依頼せられた関係上、積極的に訴取下を欲しません。原告らに対し、去る二月一五日の弁論期日に出頭せず、さすれば自然休止となり、三〇日以内に弁論再開の申立をしなければ、訴を取下げたものとみなされ(民訴二三八)、時効完成により再び先代の遺産を取戻すことは不可能となる旨(民訴二三七、民一四九)を説述し、善処方を強く要望しました。

右の通り事情上申いたします。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例